コメットアンテナから出ているHFブロードバンドアンテナHA-750B。7MHz帯から50MHz帯までの送信をこの一本だけで無調整かつノンラジアルにカバー。で、使ったことある人は分かるはずですが、設置が超簡単、整合もリグ内蔵チューナーだけで十分、受信もそこそこ、でも飛ばないアンテナとして有名。私もワイヤーの1/2波長ダイポールを設置してからは使っていません。給電部が頑丈にできていて簡単に開けられないので、どういう仕組みなのか以前から気になっていました。

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この手のアンテナのしくみを調べようとしたら、海外でわずかに G8JNJ氏 と、VK5ZE氏 の情報を見つけたくらい。いずれも最初期に出た固定用のコメットCHA-250Bの解析のようです。国内では少なくともCQハムラジオ別冊2007年9月号でJJ1GRK高木OMが23ページにもわたって詳細に考察されているのを知っていますが、市販のブロードバンドアンテナの内部写真は無く、なぜかレントゲン写真の影と推定図にとどまっています。

ここまで構造の情報が少ないのは何かの陰謀でしょうか。この手の短波用ブロードバンドアンテナ(BBアンテナ)は10年くらい前から継続して販売されているのに、BBアンテナ給電部の分解写真はggrksでも先ほどのG8JNJ氏のサイトとそこから引用してる個人ブログが見つかるくらいです。私が持っているコメットのHA-750Bはこのジャンルのモービルアンテナとして先駆者だったと記憶していますが、やっぱり飛ばないアンテナは要らないし断捨離したいのでオークションにでも出そうと思ったら中古でも1万円~2万円近くと割といい値段で落札されてるようです。きっとこの魔法のようなアンテナを誰しも一度は使ってみたいのでしょう。そして使ってみたらさっさと手放したくなるでしょうね。このさいお金に化けてもらおうかと心が揺らぎましたが、技術的興味と未だ見ぬ2万円とを天秤にかけて3日間考えたあげく、分解してみることに。

フィンがある部分より下のところはフィンにネジ山が切ってあって、MPコネクタがある金具がねじ込まれてるんだけど接着剤も流されていて簡単には外れないし、マッチング部も接着剤で固定されているのでねじって外せたところで接続部から壊れる。逆にエレメントがつく上部は一個イモネジが見えてるんだけどそれを緩めたところで何も起こらない。構造はわからないけど上部はフィン側にはネジなしで差し込まれた状態で接着剤を使って固定しているっぽいのでここも簡単には外れない。もともと発熱する部分なのでドライヤーで熱したくらいでは接着剤も緩まないだろう。結局どうやっても破壊モードで分解する必要がある。

うちには金属パイプをすぱっと切れるような電動工具も無いし、どうせ捨てる機材に金はかけられないので近所のDIY店で一番安い金ノコとオイルを買ってきて、給電部とごりごり1時間格闘して切断。あああ、2万円あったら新しい○○が買えたのになあ…

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ついに姿を現したご本尊。大きい○状のものは薄いファイバーのパイプ。コアを押さえて固定するためのものです。給電部の内側とフェライトコアが軽く接着してあり動かないようになっています。給電部は放熱のためフィンになっていますが熱的にはあまり結合していないようです。給電部の下部に穴は開いていますが上部は閉塞しているため熱はこもります。なお切断箇所はフィンの端から1.5cmくらいは離さないと前後の金具部分に当たります。

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ご開帳。内部構造は前述の海外サイトに載っていたCHA-250のそれとほぼ同じです。違うところはフェライトコアの間にテフロン製のスペーサーが入っていることと、エレメントに向かうケーブルにフェライトコアが一個挿入されているところ。

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このHA-750Bの分解写真、国内サイトでは初めてなんじゃないでしょうか。とりあえずわかりやすいよう絵にしてみました。※図中のスペーサはタイトではなくテフロンが正解です。

HA-750B図面

これを見るとCQ誌別冊の高木OMの考察にほぼ近いことがわかります。実際のところ載っている推定構造とは違いますがよくぞここまでという感銘を受けます。ただ推測に基づく記事なので実際のHA-750の動作とは少し違うように見受けられる部分はあります。

この構造をよく見ると、基本的にはオートトランスのマッチング回路です。一次側の電流がかかる部分は真鍮パイプになっています。動作がよくわからないとしてもとにかく50Ωを4~9倍のインピーダンスに整合させているのは間違いないので、出力に400Ωの無誘導負荷を接続したとき、電圧比は実測で低い周波数では1:4.5程度、高い周波数では1:0.3程度になっていました。またパイプ間の静電容量は実測で12pF、シールドケース込みで25pFくらいでした。私はこの二つのトランスが静電結合してるんじゃないかと思ってましたが違うようです。やっぱりよくわかりません。

二次側はHIV線(撚り線ビニール被覆)で一次側に対しては逆相になるように巻かれており、巻き線比は1:3(真鍮パイプが一次側、HIV線が二本が二次側となる)、インピーダンス比では1:9となると思われます。これがなぜブロードな特性になるのかというと、CQ別冊の解説によると、反射波はオートトランスの反対側から逆流してくるのに対して、リグがつながる1次側と9倍も違うインピーダンスによってミスマッチになり、結果として1次側には反射波による電圧が励起しにくい、というものだそうです(CQ別冊ではこのマッチング部に方向性があるような書き方をしてありますが私には理解できません)。また意図的にトランスの効率が下げてあってフェライトコアで熱として消費するようになってるようです。ただし完全な方向性結合器(アイソレータ)では無いので、反射波と同じように受信波もおそらくリグに入りにくいはずで、受信なら高感度で使えるというのは若干微妙です。なおエレメントに向かう折り返し部分は高木OMによるとチョークになっているので高い周波数領域では抵抗になってVSWRの低下に一役買うようです。当然出力は低下するはずです。エレメント直前のフェライトも同じ目的だと思われます。→実測でエレメント側のチョーク特性は-3dB@50MHz、-6dB@70MHzってとこで予想通りですが、折り返しに関してはあまりチョークの効果はみられませんでした。内部写真をクリックして高解像度でよく見てもらうと分かるんですが上の1こに対して、下の6こはコアの粒子が荒い感じに見えます。コアの種類が違う証拠です。

メーカーの説明によると「ブロードバンドアンテナは各エレメントに共振しない進行波型の為、フルサイズダイポールと比較した場合、-6~-10db程度劣ります。」と書かれています。単純に送受信とも10dB減衰してると考えると、受信ではSメーターで2くらい少ないだけですから気にならないといえばそうかもしれません。送信では-10dBならば120W入れても12Wぶんしかエレメントからは出ていかないってことなので、あれあれって感じですね。エレメントの影響が入力側からも分かる通りマッチング部も完璧なアイソレータになってるわけでもありません。まあ戻りの電圧が1/10に抑えられるならばそれだけでVSWRは1.9になるわけなんで、実用域って言ってしまえばそうかも。

ついでにローディングコイル部も収縮チューブを外してみた。0.7mmΦのポリウレタン線、16mmΦのFRPパイプに254(253?)ターン。この導線、耐入力120Wのアンテナのローディングコイルにしては細いし間隔が密だなって思います。進行波型アンテナとは言っていますが、エレメントに限って言えば解放端なので反射波は発生しているし、VSWRが立っているはず(おそらく7MHz帯が基本共振周波数)なので周波数と位置によっては電圧腹になる場所もあるはずです。給電部で電力をロスすることが前提だとすると、エレメントにかかる電力は入力よりだいぶ少ないと見積もるのが妥当なんでしょうか。FRP管も割って内部を覗いたんですが特に何もなく空芯。トラップや移相器なども無いです。広告では進行波型アンテナと言っていますがこれは入力端子から見た話であって、取説のVSWR特性を見ると7MHz、25MHz、40MHz、50MHz付近で特性が急峻に変化している部分があることから、エレメント単体はおそらく共振周波数が存在していますし(ほんとうの進行波型アンテナは抵抗などで終端して反射波が発生しないようにする)。なのでエレメント部は特にこれといったしかけも無くて単にセンターロードというか短縮型ホイップ。

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ここまで分解してコメットのHFブロードバンドアンテナはエレメント付きダミーロードや未知なる魔法のアンテナではなく、短縮型ホイップに反射波を吸収するため結合ロスが大きくなるようにした何等かのマッチング回路を組み合わせたものだとわかりました。しかし、超お手軽という以外は無調整アンテナで横着せずに、チューナー+ワイヤーのがまだ良いかもですね。

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HFブロードバンドアンテナを分解してみた” への9件のフィードバック

  1. 初めまして よくぞ解体してくれましたね 私は発売当初購入3日目にやふーに載せました 7メガは何とか聞こえましたがたは全滅でした 秘密がわかりましたね 杉田げんぱくに負けるとも劣らず

    1. 解体新書はよかったですね(笑。ありがとうございます。
      使う前はローよりもハイバンドや50MHzのがいけるんじゃないかと淡い期待をしてましたが、この構造ではだめですね。
      私も7MHz帯付近の特性が良くなるようにはしてあって、他はおまけで送信もできるという程度じゃないかなという印象です。

  2. 初めまして。切断(破壊)されたんですね。ブロードバンドとうたっているので、どのような構造か興味ありました。
    送信には向かないですね。

    30年前は塩ビパイプにコイル用に旋盤で溝を切り、自作のモービルアンテナで
    3.5MHz、14MHz、21MHz、29MHz、50MHz、144MHzをルーフサイド、牽引フックに取り付けてました
    まるで針ハリネズミのようだと言われてました。

    1/4λの長さになるようにローディングコイルを長めにして運用したい周波数にタップを出し、
    Cを切り替えて同調をとる方式が一番なのかなと思っています。

    迷ってたアンテナなので、購入しなくてよかったです

    1. JH8ANP様はじめまして。
      本当は元に戻すとか、自作アンテナの部品にでもするつもりだったんですけどね。試してもVSWRが全体的には落ち着いてるのと、エレメントが共振する付近だとそれすら微妙だということがわかった以外は、あまり良い結果にはなりませんでした。
      私も非共振型のブロードバンドよりは、多バンドであっても共振型の方がやはり良いのだと思います。理想は非短縮の単バンドなのでしょうがモービルだと物理的制約もあるので、ブロードバンドや短縮型はどこに妥協点を見出すかなのでしょうね。

  3. 初めまして。
    私も10年位前にアパマンハムにいいかと購入しました。
    ベランダに設置してトビの悪さで数回使っただけで、金属ごみに出しました。
    30k近くしたのに。(泣)

  4. FUJI様こんにちは。
    私は戸建てで購入時は窓から出して使っていました。
    JA2IGYの朝熊山50MHzビーコン局も比較的近いのにノイズ混じりで入るかどうかでした。
    結構高価なのにいまいちっていうのが残念です。ダミーロードにもならないですからね。

  5. だいぶ昔、発売直後に短い方を買ってモービルに取り付けましたが、全くダメ(耳も、飛びも)で、長い方も買って試しましたが、これも同様でした。お小遣いをかなりつぎ込んだのに・・・ お陰様で、短縮モービルアンテナ不信になってしまいました。 その後は3mくらいのホイップを後ろに取り付け、ATU(AH-4)を車のトランク下(バンパーの裏あたり)に取り付けた形に落ち着きました。3.5~50MHzでモービル運用しています。これは耳も飛びも我慢できる。
    当時、分解したかったけど、元気が出ませんでした。勉強になりました。ありがとうございます。

    1. 鈴鹿様ウェブサイト、拝見しました。すばらしい設備ですね。
      当方のBBアンテナは二階の窓に設置してもいまいちだったので、車両だとなおのことだと思います。これは本来モービル用なんですけどね。値段も高いうえに、動作原理が公開されてないというところも個人的にはひっかかります。

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